事実実験公正証書は、嘱託を受けて、公証人が五感の作用により直接体験(事実実験)した
事実に基づいて作成した公正証書です。対象となる事実には、私権の得喪・変更に直接・間
接に影響がある事実であれば、債務不履行、不法行為、物の形状、構造、数量ないし占有の
状態、身体・財産に加えた損害の形態・程度等も含まれます。
《事実実験公正証書の機能》
事実実験の結果を記載した事実実験公正証書は、証拠を保全する機能があります。その原
本が公証役場に保存される上、公務員である公証人によって作成された公文書として、高度
の証明力を有します。
《事実実験公正証書の例》
上記の通り、対象となる事実は多種多様ですが、分かりやすい例を2,3挙げてみます。
①貸金庫の開披
銀行が貸金庫契約を解除後、貸金庫に入っている内容物を他の場所に保管替えをする手続
きについて、公正を確保するために公証人が立会い、内容物を確認した上、目録にし、それ
を添付して公正証書を作成することが行われます。
また、相続手続きにあたり、公証人が相続人や遺言執行者から嘱託を受け、相続財産把握
のため被相続人名義の銀行の貸金庫を開披し、その内容物を点検・確認する事実実験公正証
書を作成することで、後々の紛争を予防する効果があります。
②尊厳死宣言
尊厳死宣言公正証書も事実実験公正証書の一種です。尊厳死宣言公正証書は、将来、病気
や事故、老衰等によって死期が迫っている場合になったとき、死期を伸ばすだけの延命治療
を行わないで欲しいという希望を記したものですが、嘱託人がそのように述べたという事実
を公正証書にするものです。
ただし、延命治療をするかどうかはは担当医師が判断するものであり、公正証書の記載が
医師を法的に拘束するものではありません。
③特許権
特許権者の嘱託により、特許権の侵害されている状況を記録した事実実験公正証書を作成
する場合
など
《目的を明確に》
何の目的のために、事実実験をどのように実施し、どのような内容の公正証書を作成する
かについて、嘱託する公証人と事前に十分打合せをすることが必要です。
以上、ご参考になれば幸いです。