遺言書作成

 子どもがいないけど、財産は間違いなく妻(夫)に相続されるだろうか?先妻との間に子どもがいるけど自分亡きあと、今の家族と相続トラブルにならないだろうか?

 相続については、様々なお悩み、ご心配があると思います。ここでは世間でよく誤解されていることや遺言の基礎知識について、簡単にまとめています。しっかりした遺言があれば、円満な相続を実現することができ、ひいてはご家族・ご遺族を守ります。是非、ご一読ください。

[意外と多い誤解]

 相続に関して、よくある誤解は次のようなものです。  

  • 子がいないのですべて配偶者が相続できる
  • 籍は入れていないが、夫婦で何十年も連れ添ってきたので、お互いに当然相続権がある
  • 相続人が複数いても、同居してきた配偶者がその居宅を自動的に相続できる
  • 一度遺言をするとその財産を処分できなくなる
  • 遺言は撤回できない
  • 家族の仲がよいので、我が家は相続で揉めることはない

 遺言は、このような誤解から生じる思わぬ事態や紛争を防止し、円満な相続を実現するすためにもはや欠かせないものとなっています。

 

1.遺言とは

 遺言は、人が亡くなった際の財産の処分等についての意思を実現する法的制度です。財産的な行為だけでなく、認知などの身分行為や未成年者後見人の指定などもすることができます。遺言がなければ、相続人全員による遺産分割協議となりますが、原則として、法定相続人に法定相続分に従って承継されると考えた方がよいでしょう。遺言には、いくつか種類があり、法的効果は同じですが、手続きや確実性、費用の有無等の点に違いがあります。

 

[遺言でできること(主なもの)]

<1>認知

婚姻関係にない男女の間に生まれた子について、その父または母が自分の子であると認め、法律上親子関係を発生させることをいいます。

<2>遺贈

遺言書によって財産を無償で譲ることをいいます。受遺者は法定相続人である必要はありません。

<3>相続人の廃除

相続人となる予定の人の相続権をなくしてしまうことをいいます。

<4>相続分の指定

例:配偶者、子ども二人の計3人が相続人の予定の場合に各取り分を1/3とする。

<5>遺産分割方法の指定

例:自宅の土地・建物は長男に、預貯金は二男に相続させる。

<6>遺言執行者の指定

遺言内容を実現する人をあらかじめ決めておくことです。

<7>配偶者居住権の遺贈

「配偶者居住権」とは、被相続人(亡くなった方)が所有していた実家や建物などに、亡くなった方の配偶者(妻であることが多い)が無償で住み続ける権利をいいます。 

 

2.遺言能力

 満15歳になれば、誰でも遺言をすることができます。しかし、重度の認知症の方など事理弁識能力がない場合は遺言をすることができません。認知症などがなくてもご高齢者が遺言をした際、相続開始後に相続人間で遺言能力(遺言をするための判断力)の有無を巡って紛争になることがあります。遺言は元気なうちに作成することが大切です。

 

3.法定相続人と法定相続分

 法定相続人には順位があり、上位の相続人がいる場合は次順位以下の方は相続人にはなれません。配偶者は常に相続人になります。配偶者がいる場合、次のようになります。

※1 
子が既に亡くなっている場合は、その者の子が(被相続人の孫)が相続人となります(代襲相続といいます)。その者の子も既に亡 くなっている場合は、さらにその子(被相続人の曾孫)が相続人となります(再代襲相続といiいます)。

※2

兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は、その者の子(被相続人の甥姪)が相続人となります(再代襲相続はありません)。代襲相続の原因には、上記のように相続の開始以前に相続人となるべき子・兄弟姉妹が死亡している場合の他にも、相続人に欠格事由がある場合、相続人が廃除されたため相続権を失った場合があります。代襲相続の趣旨は、相続開始以前に相続人が相続権を失った場合に、その相続人の直系卑属の期待権を保護することにあります。なお、相続の放棄は、代襲相続の原因とはなりません。

 

4.遺留分

 兄弟姉妹を除く相続人には遺留分があり、どのような遺言をしても最低限相続できる割合が確保されています。遺言をする際は、様々な事情に加え、遺留分に配慮した内容にしないと相続人間で後々トラブルとなる恐れがあります。 

直系尊属のみが相続人である場合               1/3        
上記以外の場合

         1/2


(例)推定相続人が子二人(A、B)の場合、法定相続分はそれぞれ1/2ですので、それぞれ遺留分は遺産の1/4(相続人全体の遺留分1/2×法定相続分1/2)となります。子Aに全遺産を残す旨遺言することは子Bの遺留分を侵害することになり、相続開始後、ケースによっては子Bが子Aに遺留分侵害額請求する等トラブルになりかねません。

 

5.遺言の方式

 遺言の方式は、普通方式と特別方式に大別され、普通方式には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つが、特別方式には危急時遺言と隔絶地遺言の2つがあります。普通方式の概要は以下の通りです。 

自筆証書遺言     

 遺言者がその全文(但し、財産目録はワープロ等で印字可。目録の各ページに署名・押印が必要。)、日付及び氏名を自書し、これに押印します。書き損じた場合は、その場所を指示し、変更場所に押印する等訂正方式が厳密に定められており、この方式通りに訂正しないと遺言全部が無効になります。また、遺言書開封前に家庭裁判所の検認手続き※が必要です。尚、遺言書は、法務局にて保管することもできます(自筆証書遺言書保管制度)。この場合検認手続きは不要となりますが、遺言内容の有効性が保証される訳ではありません。                          

公正証書遺言

  公証役場にて公証人が作成します。証人2人以上の立会が必要で、遺言者が遺言の趣旨を口述し、公証人がそれを筆記して遺言者及び証人に読み聞かせます。その後、遺言者及び証人が筆記が正確であることを承認して、各自が署名・押印し、公証人がその証書が民法所定の方式に従って作成したものでることを付記し、これに署名・押印します。実際には、事前に遺言内容を公証人と打ち合わせしておきます。原本は、公証役場に保管され、正本・謄本が遺言者に交付されます。公証役場に支払う手数料が必要です。こちらをご覧ください。→公証役場の手数料

秘密証書遺言

 公証役場にて公証人と証人2人以上の立会のもとで作成されますが、遺言書自体は遺言者が作成し、公証人と証人は遺言内容を確認しません。遺言者が、遺言内容を記した証書に署名・押印し、同じ印章で封印します。そして、公証人及び証人の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述します。公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名・押印します。署名・押印を除き、自書する必要はありません。遺言書開封前に家庭裁判所の検認手続き※が必要です。

※検認とは、相続人に対し遺言の存在およびその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の現状を確認し、証拠を保全する手続きです。遺言書の有効・無効を判断する手続きではありません。検認は、遺言書の保管者またはこれを発見した相続人が相続開始地(遺言者の最後の住所地)の家庭裁判所に請求します。

 公正証書遺言は、上記の通り、公証人が作成し、原本が公証役場に保管されますので、改ざんや偽造等のおそれがなく、最も安全確実な方法といえます。 

 

6.遺言を残した方がよいケース

 次のような場合は、遺言を残し、かつ、遺言執行者を指定しておくと安心です。 

・自分の財産を法定相続分とは異なる配分をした

 いとき 

遺言がないと法定相続分による遺産分割となります。
・ 遺産の種類や数が多いとき

遺言がないとどの遺産を誰がどのくらい取得するか等を

巡って、遺産分割協議が紛糾する恐れがあります。

・推定相続人が配偶者と兄弟姉妹・親のとき

遺言により、例えば、配偶者にだけ遺産を残すことが

できます。夫婦がお互いに遺言をした方がよいです。

その際、配偶者が自分より先に亡くなる場合に備えて

予備的遺言をしておきまししょう。

・自営業の場合

お店を手伝ってきた親族を遺言で後継者に指定できま

す。但し、書き方には注意が必要です。単に「長男Aに

店を継がせる」では、不十分です。

・推定相続人以外の方へ遺産を配分したいとき

孫や甥、姪への遺贈や公益財団等への寄付をすることが

できます。

・推定相続人の中に行方不明者がいるとき

行方不明者にも相続人としての権利があるため、不在者

財産管理人を選任した上で遺産分割協議をしなければな

りません。原則は、法定相続分による分割となります。

・推定相続人の中に浪費者がいるとき

これまで散々家族に迷惑を掛けてきた浪費者への支給額

等を考慮した遺産配分ができます。

・推定相続人の一人が海外にいる場合

海外にいる推定相続人に一時帰国してもらうなど遺産分

割協議が大変です。また、印鑑証明書に代わる署名証明

や在留証明の取得が必要です。

・相続人がいない場合

公益財団への遺贈など遺言で財産処分の内容を決めるこ

とができます。(相続人がいない方の財産は、遺言がな

いと国庫に帰属します)

・先妻との間に子があり、後妻がいる方

遺言がないと遺産分割協議が難航します。専門の遺言執

行者を指名しておけば、遺言執行にあたり、先妻の子と

後妻が直接連絡を取る必要がありません。

・推定相続人に認知症の方がいる場合

認知症の方が遺産分割協議がきないため、家庭裁判所に

申立てをして成年後見人を選任してもらう必要があり、

手間と費用が掛かります。原則、法定相続分による遺産

分割となります。

7.遺言執行者とは

  遺言を執行する者として特に指定・選任された者をいいます。遺言で指定することができます。遺言執行者には、財産目録の作成・相続財産の管理、その他遺言執行に必要な一切の行為を行う権限があるため、遺言執行者を指定することは、円滑に遺言の内容を実現するために重要です。相続開始後に家庭裁判所に選任請求することもできますが、予め遺言で指定しておいた方がスムーズです。

 遺言執行者は、推定相続人を指定することも出来ますが、事務が複雑で多岐に渡るため、出来るだけ専門家を指定した方が確実です。

 

[遺言執行者の職務]

1.遺言書の確認

 公正証書遺言及び保管制度を利用した自筆証書遺言以外は、家庭裁判所における検認が必要です。

2.戸籍の収集と相続人の確定

3.遺言執行者の就任通知

4.遺言内容の通知

5.財産目録の作成・交付

6.遺言内容に沿った遺産の分配手続き(預貯金等の払戻し・分配、相続登記など)

7.職務完了通知

 

[遺言執行者しか出来ないこと]

1.遺言認知

 遺言執行者、就職した日から10日以内に認知の届出を行います。認知によって法律上の父子関係が生じその効果は出生の時に遡ります。遺言認知で大きな意味を持つのは、相続であり、認知された子は相続権を持つことになります。

2.遺言廃除

 遺言廃除では、遺言の効力が生じた後に、遺言執行者が遅滞なく相続開始地を管轄する家庭裁判所に廃除の申立てをして、審判が行われます。

 

[相続人以外の人や団体に不動産を遺贈する場合]

 遺贈による権利移転の登記は、相続人又は遺言執行者を登記義務者、受遺者を登記権利者として共同申請します。遺言執行者がいない場合、相続人全員の承諾がないと権利移転の登記ができません。 

 

8.祭祀承継者(祭祀主宰者)

 祭祀承継者とは、祭祀財産を引き継ぎ、葬儀、法要、お墓・仏壇の管理、檀家として菩提寺との付き合いなどを行う人です。

 祭祀承継者は、①直前の祭祀承継者による指定 ②慣習 ③家庭裁判所の判断の順で決まります。生前又は遺言により指定されていない場合に、承継を巡ってトラブルが起きることがあります。遺言者の配偶者や長男が承継することが多いようですが、親族関係(遺言者との身分関係や事実上の生活関係、承継候補者と祭具等との間の場所的関係、承継候補者の祭祀主宰の意思や能力など)を吟味し、信頼できる人を見極めて指定しておくと安心です。

 ただし、祭祀承継者に指定されても祭祀を営むべき法的義務を負うものではありません。承継しないこともできますし、祭祀のやり方については、承継者の裁量に委ねられることに注意が必要です。

 

[祭祀財産]

系譜:先祖代々の系統を表示する家系図など

祭具:祭祀・礼拝に使用される位牌、仏壇など

墳墓:墓石、墓碑など 

9.当事務所の遺言業務(遺言公正証書原案作成)

当事務所が行う遺言業務は、次の通りです。

 

①推定相続人調査

 戸籍謄本・除籍謄本・改正原戸籍の収集、推定相続人関係図作成

②(相続)財産調査

 不動産:名寄帳、登記簿謄本・固定資産評価証明書取付

 金融資産:金融機関毎に残高確認

 その他:その他の(相続)財産の確認

 以上を基に財産確認書を作成

③遺言原案について打合せ

④遺言執行者の選定

⑤公証役場と打合せ

⑥証人2名の選定と依頼 

⑦公証役場にて遺言公正証書を作成(遺言者ご本人の出席が必要です)

⑧遺言公正証書(正本)の保管